【 おぼろと おふろ 連載 .02 】大阪市「千鳥温泉(自転車湯)」
公開日:2023年10月10日
カテゴリ:おぼろとおふろ
取材・撮影:奥野靖子(銭湯ОLやすこ・銭湯大使)
【 おぼろと おふろ 連載 .02 】大阪市「千鳥温泉(自転車湯)」
110年余、日本のお風呂文化に寄り添いながら時代を紡いできた おぼろタオル。
同じ様に、 人々の生活に寄り添ってきた銭湯を紹介します。
紡ぐ人:桂秀明さん(大阪府大阪市 千鳥温泉代表)
大阪府大阪市にある、千鳥温泉。
地元はもちろん全国からも客が訪れ、愛されている。
重厚感ある光りをたたえた、御影石の湯舟。
浸かると思いの外、深く、心地よい熱さに包まれる。
呼吸が整えば、湯舟淵まで迫るタイル絵が圧巻だ。
小さな粒がデカい富士山や茅葺屋根を描いている・・・
繊細かつダイナミックとはまさにこの事。
しかし千鳥温泉の魅力は、これに留まらない。
実は「ちょっと変わった銭湯の愉しみ方」ができるのだ。
その愉しみは拡がり・・・新たな「異名(裏屋号)」で親しまれる程。
一体どんな事か。仕掛け人である店主・桂さんに話を伺った。
異名1:新・鏡広告・先駆けの湯
千鳥温泉の鏡広告。合計39枠の広告が各カラン前に並ぶ。現在は看板職人のサインズシュウ・上林修さんが継承。
千鳥温泉では、カラン前の鏡に広告がついています。
眺めているだけでも楽しい、って評判ですね。
引き継ぎ当時の鏡は、ガサガサもいいとこで。
「鏡変えへんのか?髭剃るとき、曇ってみえへん。」
とお客さんに言われる事もあって。
情けないけど、自分のお金では無理だ・・・と諦めていたところ、
鏡広告を思い出しました。「これで鏡を新調できるのでは?」と。
広告主探しは、Twitter(現X)で募集をしたら、徐々に埋まりましたね。
おかげ様で鏡はピカピカです。
ご近所だけじゃなく、関西圏外・・・全国からの依頼を頂けてます。
あと、商店や企業だけじゃなくて、
恋人募集、お仕事募集みたいな個人広告もあります。
まぁ、自由な広告なんです。
鏡広告は「手書き」にこだわってます。ええ味わいでしょう?
当初、字書き職人である松井頼男さんにご依頼していました。
でも2021年に、松井さんが亡くなられてしまって・・・。
この職人技ができる方は希少ですが、諦めたくなくて。
どうにか、手描き映画館版職人の八條工房・八条祥治さんを経て、現在は看板職人のサインズシュウ・上林修さんが継承くださりました。
銭湯という 裸で落ち着く場に、職人さんが手がけた広告がズラッと並ぶ。
広告主さん常連さん・・・みんなでその事自体を、おもろがってくれているのがありがたいですね。
異名2:じゃりン子チエのコラボTシャツがある銭湯
千鳥温泉と漫画「じゃりン子チエ」のコラボTシャツを売っています。
じゃりン子チエ事務所さんとのご縁は、鏡広告の依頼がきっかけで始まりました。
「千鳥温泉」と「ゆ」の文字は、職人松井さんがかつて書かれたものトレースして添えています。
とても思入れ深いTシャツになっています。
異名3:自転車湯
「自転車が中に置ける風呂屋にしよう」という事だけは、引き継ぐ当初から決めていました。
休みさえあれば青春18きっぷで旅行に行ったものですが、風呂屋に寄る度に「大事な自転車が盗まれないか!」と心配でしてね。
それで、自転車が置けるスポットを用意しています。
ポツリポツリとですが、自転車乗りがウチに立ち寄ってくれる様になってきました。
いつか、自転車ツアーのモデルコースをPRしたいですね。
異名4:読書湯
実は千鳥温泉は、湯舟での読書が店主公認で許される銭湯です。
「なんやそれ?」な公認でしょ。
自分が湯舟の読書をしたいがためのルールです。
昔よく通っていた銭湯が、読書を許してくれはって。
もちろん他のお客さんが気遣わない程度にですが、湯舟、水風呂・・・浸かりながらじーっくりページをめくるでしょう?
これが気持ちええんですわ。その状態がそのものがええ。
今は自分の店なので、人が少ない時に思う存分読書していますよ。
読書好きの方も、そうでもない方も味わってほしいです。
ただし、変なことしている自覚をもって読んでくださいね。
雨の日は銭湯は空きがちなので、もしかしたら狙い目かもしれません。
「雨の日は、読書家が本を読みに来る・・・」みたいになると面白いですね。
千鳥温泉を紡ぐ想い
「なにか変わった事を企てるぞ!」みたいな気合は、全然なかったです。
自身の「こうだったらいい」を試して、結果としてお客さんが遊んでくれているというか。
サラリーマンやめて、風呂屋になったのは2017年。
千鳥温泉が廃業するかもしれないという知らせを風呂仲間から聞いた日、すっとんで行きました。
近所の風呂屋が1軒減る事、単純に寂しくって。
気付けば、大家さんにも出向いて、事情を聞いていました。
「あとをやる人が おらへんねん」って聞いて、そこから決断まで約1週間。
残りの人生かけて、自分が風呂屋になるのは「なんか面白いかな」って思ったんです。
家族や仲間の応援あって、その風呂屋人生送れています。
「次は、どんな異名をつくりたいか?」ですか?
がっかりするかもしれないけど・・・もっと休みたいです(笑)。
風呂屋がもっと休みを取りやすくなる態勢づくりを、試したい。
今も千鳥温泉は、たくさんの若者が住み込んでくれて掃除を手伝う仕組みを回していますが、
もっといいやり方があるのではと模索しています。
そうすれば、趣味の旅行も行けますしね。
・・・店主も、働き手も、お客も、皆が幸せな風呂屋として、
千鳥温泉はまた新しい気付きを与えてくれそうだ。
<おふろ情報>
【 大阪市「千鳥温泉(自転車湯)」】
住所:大阪府大阪市此花区梅香2-12-20
※斜め向かいにコインパーキング8台あり
※阪神なんば線 千鳥橋駅より徒歩6分、JR環状線 西九条駅より徒歩12分
※大阪シティバス56・59・81系統 千鳥橋バス停より徒歩約5分
設備:風呂(中温・高温・水風呂)、サウナ、(※要確認)
⚫公式ホームページ: https://jitenshayu.jp/
⚫公式Twitter:https://twitter.com/jitenshayu
◆お風呂の好きな方におすすめなタオルはこちら(おぼろタオル公式オンラインストア)
https://oboro-towel.jp/SHOP/266182/266186/list.html
奥野靖子(銭湯OLやすこ)さんプロフィール
北海道出身、東京在住の会社員。「銭湯はもう一つの我が家」とたとえ、人との関わりに癒されながら、日本各地の銭湯を巡っている。
社団法人銭湯文化協会任命・銭湯大使、東京都浴場組合・公式ライターとして活動するほか、テレビや雑誌、 SNS 等で銭湯情報を発信。
共著「旅先銭湯 2/3/4 (さいろ社)」も発売中。
Twitter:https://twitter.com/sento_olyasuko
ブログ:https://note.com/sento_ol_yasuko
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